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「……いつも、勝手に触るくせに」
吐かれた言葉の通りで、自嘲する。これでも触れるのを我慢している方だと言うと、朝佳はまた、俺を軟派の男だと思うに違いない。
ここまで異常なくらいに触れたくなるのが、俺の中で、朝佳ただ一人だということは、俺しか知らない。
「お前が悪い」
その瞳で唆してくる朝佳が悪い。そう胸の奥で呟いて、あきれ顔の朝佳の前髪を撫ぜた。
仄かに熱が伝わってくる。
気持ちよさそうに瞼を伏せる朝佳にまた笑いそうになった。
弱るといつもの拒絶が、かなり弱まるらしい。これはこれで寂しいものだと思う俺は、すっかり朝佳に毒されていた。
「本当、調子狂う」
呟いた朝佳に、俺は確かに笑っていた。
前髪を撫で続けて、やっと寝息を立て始めて朝佳を確認して、寝室を出る。
またいつもと何ら変わりない整然としたリビングを見つめて、ポケットを弄った。
指先に、いつもと同じボックスの角がぶつかって、取り出す。一緒にテーブルの上に置かれている灰皿を手に取って、カーテンの先にあるベランダを目指した。
そういえば、随分と長い間吸っていない。
今もただ手持無沙汰で手にしただけだ。もしかすると禁煙ができるかもしない。別にしようと思ったこともないのだが。
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