メンバーリスト 「ディスタンス」

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『本当、調子狂う』 ふいに朝佳の声が蘇ってくる。 狂っているのは俺の方だ。もう何度も乱されて、普通じゃない行動をとっている。 自分のテリトリーに誘い込むのも、こうして朝佳のために部屋の外で煙草を吸っているのも、全てが普通じゃない。いつになったら朝佳はその理由に気が付くのだろう。 ため息のように煙草の煙を吐いた。 いくら思考したところで、朝佳のことは朝佳にしかわからない。考えるだけ時間の無駄だ。 それよりも、今やるべきことのために動き出す方が賢明だろう。 俺の家に女物の着替えや食いものや、その他諸々があるわけがない。 着替えは俺の物でもいい気がするが、俺の物を着たくないと言われるところを見るくらいなら、恥を忍んで購入した方が良いに決まっていた。 煙草の先端を、持ってきていた灰皿に擦って一つ伸びをした。どこから行こうか。朝佳が目を覚ます前に帰ってくることを考えると、あまり時間がない。 まずは薬局からだろうか。 冷却シートを買わなければならない。 あれこれと考えてベランダを出ようとしたとき、スマホがバイブレーションを鳴らした。 この健康的な時間に俺に連絡してくるのは、藤しかいない。十中八九講義に出るかどうかの確認だろうと思い込んでスマホの着信に答えた。
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