メンバーリスト 「ディスタンス」

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「藤か?」 呟いて、答えのないそれに違和感を持った。 スマホを耳から離して、“非通知”という表示に眉を顰める。いたずら電話を疑って、迷いなく指先が通話を消すために動いていた。 その手が止まったのは、通話先から、声が聞こえたからだ。 『——寄るな』 男声がもごもごと響いている。 気色の悪い音にまた眉を顰めながら、確かに声を聴きとるために、俺はもう一度スマホを耳に当てていた。 随分気色の悪いいたずら電話だ。もごもごとしている音声は、スマホの電波環境の問題だけではなさそうだった。 「もしもし」 いたずらだとわかっていながら、なぜか引っ掛かって声をかける。 全国共通の言葉を吐いて、やはり何の返答もないことに呆れた。ただの暇つぶしか、とため息を噛んで、相変わらず秋めいている社会に目を落とした。 『近寄るな』 「あ?」 この絶好の行楽日和に、こいつはこんな事しかすることがないのだろうか。まだ平日の今日、こんなことができるのは、引きこもりかニートか、やはり引きこもりだ。 ずいぶんといい趣味をしている。 おそらく自分より年下だろう人間を思い浮かべながら、どうしようもない非行に走る少年の闇とかなんとかを考えていた。 その声が聞こえる瞬間までは。
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