メンバーリスト 「ディスタンス」

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『……間宮朝佳に、近寄るな』 その声が聞こえたとき、俺の脳裏に浮かんだのは、引きこもりでもニートでも何でもなくなった。 あの日、朝佳をめちゃくちゃに暴こうとしていた男。その指に婚姻の印を残していた、ごく平凡なサラリーマンだ。 「お前、誰だ」 呟いた俺の声に返答はない。ただもう一度『間宮朝佳に近寄るな』とわけもわからない釘を刺された。 声が妙な機械音に変換されている。何か機器を使っているようだ。その時点で、こいつは俺に悪意を持っていた。 それもただのいたずらではなく、明確な悪意だ。 『これ以上近寄るなら、殺す』 その言葉を、子どもの戯言以外で聞くのは久しぶりだった。 妙に冷静になる頭に、男の言葉がすんなりと入ってくる。 この男は異常だ。あの日見た時から異常だと思ってはいたが、想像以上だったらしい。 朝佳は毎日この男に苦しめられている。毎日、外を歩くだけで危害が襲ってくる。その元凶が全てこの男だとしたら。 「殺しに来いよ。女々しいことしてないで真っ向から来い。いい加減、気色悪いんだよ」 できるだけ感情を乗せないように呟いて、音声が笑ったのを聞いた。 何が可笑しいのだろうか。気色悪い。 こんな男に付き纏われている朝佳を思うと、どうにも吐き気がした。
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