お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

30/39

344人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「別に、それでもよいではないか。ひかりは、その言葉に共感したからこそ、私に教えてくれたのだろう」 「もちろんそうだよ……。でも――」 「それなら、私にとっては〝ひかりがくれた言葉〟だ」 陽だまりのように穏やかな声で紡がれた、優しい言葉。 その温もりを心で感じた直後、なぜか鼻の奥がツンと痛んだ。 「だから、私はひかりに感謝するよ」 さらにそんな風に言われて、油断すれば泣いてしまいそうになった。 雨天様はきっと、私が泣いても受け止めてくれるだろうけれど、今は泣いてしまうのが勿体なく思えて、必死に笑みを携える。 「私ね、雨は嫌いじゃないよ。これもおばあちゃんのおかげなんだけど、おばあちゃんは雨が好きだったから、雨の日には喜んでるんじゃないかと思うんだ」 「そうか。それなら、私が降らせる雨も捨てたものではないな」 空を仰いだ双眸が、ゆっくりと緩められていく。 再び降り出したばかりだった雨は、そろそろ止む気配を漂わせているような気がした。 「コンたちが心配するから、そろそろ屋敷へ戻った方がよいな。続きは、また明日にでも案内してやろう」 「うん」 その予想は当たっていて、雨天様と一緒にお屋敷の玄関に戻る途中で傘は必要なくなった。 まだ太陽は見えそうにないけれど、閉じた傘の分以上に視界が晴れた――。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

344人が本棚に入れています
本棚に追加