お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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もし、雨天様たちのことが見えなくなったら、どんな風に感じるのかな……。 ふと浮かんだ疑問の答えは、すぐに出た。 だって、私はそのことに気づくことすらないのだ、とわかっていたから。 記憶を消されてしまうのなら、雨天様たちのことが見えていたことすら忘れてしまう。 そうなれば、見えなくなった時のことなんてわかるわけがない。 見えなくなる時はきっと、とても寂しくなる。 もしかしたら、傷ついてしまうかもしれない。 それを忘れてしまうというのは、傷つかなくても済むということなのかもしれないけれど……。 傷ついてもいいから忘れたくない、と確かに思ってしまった。 その気持ちを振り払うように頭を振り、顔を上げる。 晴れた空は気持ちよくて、雨よりも晴れている方が好きだったはずなのに、今はなんだか太陽よりも雨が見たい。 「ひかり。明日の小豆は、大福にしようか」 「うん。あんこはたっぷりにしてね」 「ああ」 「雨天様! コンは塩大福も食べたいです!」 「それなら、両方作るか」 他愛もない会話に、優しい笑顔。 いつかこの時の思い出も忘れてしまうのなら、たとえどんなに些細な出来事であっても、今だけでも心にしっかりと刻んでおこうと思った。
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