お品書き【四】 おはぎ ~別れるその日まで~

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「別に、謝ることはない。ひかりは、ただ知らなかっただけなのだ」 「でも……」 優しくされてしまうと、自分の情けなさが浮き彫りになっていくようで、いたたまれないような気さえして来た。 「誰だって知らないことも、知らないことで感じる不安もある。だが、知ったあとにどうするかによっては、私は必ずしも謝罪が必要だとは思わない」 「どういうこと?」 「反省して次に活かせるのなら〝知らないことは罪ではない〟ということだ」 小首を傾げていた私は、少し回りくどいような言い方にますます首を捻ってしまう。 つまり、怒っていないし謝る必要もない、ということなのかもしれないけれど、普通は謝罪は必要な場面だと思うから。 「仮に、ひかりが今の疑問を本人……つまり、お客様たちの前で口にしていたら私は叱ったし、お客様への謝罪を求めただろう」 それは、わかる。 だからこそ、私は数日前にお客様がいる時に感じた疑問を、今日まで口にすることを悩んでいた。 「だが、ひかりはこうして私だけに尋ね、その答えを聞いてすぐに自身の言動を詫びた。そうして真っ先に反省しているとわかる者に、私はわざわざ謝罪が必要だとは思わないのだ」 雨天様の言葉は、相変わらずとても優しくて、湿った空気すらも柔らかなものに変える力がある。
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