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「あのね、おばあちゃんが雨の日が好きだった理由を聞いた時のことを思い出したの」
「その話は私も聞いてみたい。詳しく教えてくれないか?」
少し悩んだけれど、きっとおばあちゃんなら雨天様には話してもいいと思うような気がする。
根拠はないのに、不思議とそう感じた。
「おばあちゃんは若い頃、お見合いをするためにひいおじいちゃんたちに金沢まで連れて来られたんだけど、その時に雨が降ってたんだって。それでね、おばあちゃんはお見合いに向かう途中でやっぱり嫌になって逃げ出したんだけど、必死に走ったせいで着物がビショビショに濡れて、泥だらけになって……」
帰ることもできず、かと言ってお見合いをする料亭にも行けない。
途方に暮れながらも歩いて辿り着いたのは、ひがし茶屋街だった。
今のような観光地ではなかった当時、おばあちゃんはとても心細かったと言っていた。
そんなおばあちゃんを見兼ねるようにたまたま声を掛けたのが、おじいちゃんだった。
あまり口数の多くないおじいちゃんは、『これを』とだけ言って持っていた手拭いを差し出した。
おばあちゃんは戸惑ったけれど、優しく傘に入れてくれたおじいちゃんに言われるがまま着物を拭いた。
それから、おじいちゃんに促されてゆっくりと歩き出し、お茶屋街を抜けた頃。
沈黙が続くことに耐えられなくなったおばあちゃんが、ぽつりぽつりとお見合いから逃げて来たことを話すと、偶然にもおじいちゃんも知らない女性とのお見合いが嫌で逃げて来たと言った。
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