お品書き【四】 おはぎ ~別れるその日まで~

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「彼女の幸せを願わなかった日は一日だってないはずなのに、自分以外の男性の隣で幸せそうに笑う彼女を見て、僕は傷ついてしまったのかもしれません……」 俯いたお客様の口から、絞り出すような声音で「なんて身勝手な奴なんでしょうね」と落とされた。 「今日がふたりの結婚式なんです……。彼女はもう覚えてないんでしょうが、皮肉にも今日は僕らが出会った日なんですよ……」 お客様は、「しかも、このひがし茶屋街で出会ったんです」と付け足した。 お互いにひとり旅をしていて、たまたま入ったお茶屋さんのカウンター席で隣同士に座ったのだとか。 「一目惚れでした。お互いに東京から来ていて、意気投合して……。翌日も一緒に観光地を回って、連絡先を交換したんです。たまたま住んでいる場所も近くて、東京に戻ってから勇気を出して告白して付き合えるようになった時は、天にも昇るような気持ちでした」 涙混じりの声で、幸せだった日々のことが語られていく。 幸福に満ちた思い出のはずなのに、私は涙が止まらなかった。 「それなのに、僕はもう彼女の傍にいることができない……」 「その女性の夫となる方は、どんな人なのですか?」 悲痛な面持ちのお客様に、雨天様がそんなことを尋ねた。 さすがに傷口をえぐる行為なんじゃないかとギョッとしたけれど、雨天様の表情はとても優しくて、すぐにハッとした。 だって、雨天様はそういうことをしないから。
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