お品書き【五】 上生菓子 ~神様からの贈り物~

3/39
前へ
/172ページ
次へ
「今宵の甘味は、ひかりのために作ろう」 「それまで、ここにいられるのかな……」 「もしいられなかったとしても、ひかりの心が癒えたのならそれでよいのだよ」 雨天様が紡いだ答えに、思わず眉を下げてしまった。 私の心は、本当に癒えたのだろうか……。 確かに、ここで過ごした日々は驚きと戸惑いの連続で、それでいて毎日がとても楽しくて、悲しみに暮れている暇なんてなかった。 お客様たちがそれぞれに抱えていた心の傷に触れて、色々と考えることができたとも思う。 そのおかげで、おばあちゃんのことを思い出す時には、寂しさを抱いても悲しみを強く感じることはなかったけれど……。 心の傷が本当に癒えたのかと自身に問えば、しっかりと頷くことはできないような気がした。 「ひかり、心配することはない」 「でも……」 「私たちの姿が見えなくなるということは、そういうことなのだ」 「雨天様……」 不安を溶かすように、雨天様が優しく微笑んでいる。 その笑顔はとても好きだし、雨天様の言葉を信じることはできるのに、寂しさを上手く拭えない。 「少し庭に出ようか」 雨天様は柔和な笑みを浮かべたまま、私を促した。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

344人が本棚に入れています
本棚に追加