お品書き【五】 上生菓子 ~神様からの贈り物~

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「朝が来たら布団から出て、学校や仕事に行ったり、家事をしたり……。そうして一日が始まってゆく。時には朝寝坊をして、一日中布団の中で過ごす日もあるだろうが、それをずっと続けるわけにはいかない」 「そうだね……」 「ずっと布団の中にいてはなにもできないし、気持ちがよい湯舟に浸かり続けていてはのぼせてしまう。そこがいくら心地好くて、適温であったとしてもな」 苦笑気味の表情は、私の背中を優しく押そうとしてくれている。 それに応える自信はないけれど、せめて視線を逸らさないでいようと思った。 「ひかりがここで過ごした日々は、ひかりの記憶の中からは消えてしまう。だが、心の中のずっとずっと奥では、きっとここでの日々で得たものが残っているはずだ」 忘れてしまうのに、残っているなんて……。 随分とご都合主義なドラマみたいだけれど、不思議とそうなのかもしれないと感じた。 「思い出すことはなくとも、ひかりはここでの日々で心を癒やし、少しだけ成長できたはずだ」 雨天様の言葉なら信頼できるような気がするのは、雨天様はこういう時に嘘をつかないから。 それに、気休めで安易なことを言ったりもしない。 「だから、なにも心配することはない。ここを去ってあるべき場所に戻ったら、また今までと同じように頑張ればよい」 優しい言葉に、私はどう返せばいいんだろう。 すぐにはわからなかったから、少しだけ自嘲混じりに笑った。
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