金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷

お品書き【五】 上生菓子 ～神様からの贈り物～

「もしも、追い詰められるような状況に陥り、心が潰れそうになっている時には、いっそのこと小さな荷物だけを手にして世界中を旅するのもよかろう」

「じゃあ、いっそのこと私もそうしてみようかな」

「ああ、それもよいな」

冗談のつもりだったのに、雨天様は意外にも本気で頷いてくれているようだった。
実際にはきっと、そんなに簡単なことじゃないけれど……。

「人はみな、人生を楽しむ権利を持っているのだからな」

雨天様がそんな風に言うのなら、いつかどうしようもなく悩んで身動きが取れなくなった時には、世界中を旅してみるのもいいかもしれない。
そうすれば、今の私の悩みなんて、ちっぽけなものだと笑えるだろうか。

「楽しむ権利、かぁ……。うん……人生って面倒くさいなって思うこともあるけど、ちゃんと頑張らなきゃね」

「人生とは、人の生き様だ。人はみな、脆く儚い。そして、時には醜い一面もあるものだ。それでも、前を向いて生きようともがく姿は凛と美しい」

私を見据える瞳が、そろりと緩められる。
そのまま、おもむろに続きが紡がれた。

「つらくて苦しい日もあるだろうが、いつか天寿を全うした時、笑っていられればよいのだ」

麗しいという言葉がぴったりの笑みは、雨天様の相貌をいっそう美しく見せ、瞳を奪われてしまった。