お品書き【五】 上生菓子 ~神様からの贈り物~

15/39
前へ
/172ページ
次へ
それからは、ひと言も交わさずにセミの鳴き声を浴びていた。 本当は言いたいことがたくさんあったけれど、どれも言葉にする必要はないほど、もう不安はなかったから。 「そろそろ戻ろうか」 「うん……」 雨天様から切り出されるのを予感して身構えていたのに、いざお屋敷に戻る時間になるとまた寂しさが強くなる。 つい声は小さくなったけれど、なんとか笑顔で歩き出せた。 随分と奥の方まで来てしまっていたから、お屋敷に戻る間までは少し時間が掛かる。 ただ、お互いに言葉は交わさなかった。 刻一刻と、太陽が傾いていく。 肩を並べて歩き、玄関が見えて来た頃、雨天様が「そういえば」と口にした。 「結局、なぜひかりがここに足を踏み入れることができたのか、わからずじまいだったな」 「あっ……」 「コンにも調べさせていたのだが、私もコンもその答えを見つけることができなかった」 「じゃあ、たまたまだった、とか?」 「ここに来るまでにいくつものきっかけが必要ではあるから、そういった意味では偶然が重なったとは言えるであろう。だが、その前提として、ここに深いゆかりが必要なのだ」 会話を交わしながら、首をさらに捻ってしまった。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

344人が本棚に入れています
本棚に追加