お品書き【五】 上生菓子 ~神様からの贈り物~

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「ここに来てよかったよ」 心の底から漏れていた、本音。 それを口にすると、お父さんが『そうか』としみじみと零した。 『夏休みに余裕があれば、こっちにも帰ってこい。母さんも、兄ちゃんたちもひかりを心配してた』 「うん、わかった」 素直に頷けたのは、なんだかたくさん話がしたくなったから。 実家にいる時は息苦しく思うこともあったのに、今はその時の記憶が曖昧になっていく気さえする。 電話を終えたあと、荷造りをしようとしたけれど、荷物はすべて綺麗に片付いていた。 そういえば、昨日荷物を纏めたような気がしなくもない。 「やっぱり寝惚けてるのかな」 自嘲混じりに着替えて顔を洗い、軽くメイクを施してから、帰り支度を済ませた。 お父さんに言われた通りにすべての部屋の戸締りを確認し、さっき脱いだばかりの部屋着もキャリーケースに詰めた。 荷物を持って玄関に向かう途中、軋む廊下の床板を何度か踏んだ。 静かな廊下に、ギシギシと音が響く。 お父さんたちはこの家を手放す方向で話し合いを進めていたから、これができるのは今日が最後になると思うと懐かしさとともに寂しさも抱いたけれど……。 不思議と、ちっともつらくはなかった。
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