お品書き【五】 上生菓子 ~神様からの贈り物~

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ひがし茶屋街は、相変わらずたくさんの人で賑わっていた。 ちょうどお盆シーズンだから、国内外問わず観光客らしき人たちがいつも以上に多い。 残念ながらゆっくり回れそうになくて、お土産もここで見るのは難しそうだとすぐに悟る。 仕方なく、金沢駅の構内にあるお土産屋さんで調達することにした。 何度も見た景色だけれど、今日は一段と懐かしさを感じる。 これからしばらくは、ここを訪れる機会はないからかもしれないけれど、就活が上手くいけば大学を卒業する頃にはまた来よう。 将来のことを考えた途端に不安も芽生えたけれど、悩むくらいならなんでもいいから行動に移そうと思えた。 私って、こんなに前向きだったっけ? ネガティブとまでは言わなくても、こんなにポジティブ思考でもなかったはず。 それなのに今は、なんでもいいから新しいことに挑戦してみたいという気持ちが強かった。 習い事や新しいバイトを始めてみるのもいいかもしれないし、英会話や留学なら高校生の時から興味があった。 バイトなら、和菓子屋さんで働いてみたい。 でも、どうして和菓子屋なんだろう? 特に興味があったわけじゃないことが自然と浮かんだことに小首を傾げた時、頬にぽつりと冷たいものが当たった。 小さな雫は、雨粒だと気づく。
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