お品書き【二】 どら焼き ~居場所を失くした者~

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「……ああ、そういう言い方もあるな。私を勝手にポチなどと名付けた罰当たりな奴のことなど、眼中になかったはずなのに……。いつの間にか、あやつの声を聞いてもやれぬ自身に悔しさを覚えるようになった」 どうしてだろう。 まったく知らない、人ですらないお客様の話なのに……。気づけば、涙がポロポロと零れ落ちていた。 「小娘、なぜ泣く?」 「……わかりません」 嘲笑混じりの笑みに、小さく答えた。 それは本音だったけれど、心がやけに痛いような気がしてたまらない。 「お前にはなんの関係もない話だろうに」 お客様は、小さな社でひとり、ずっと主の代わりを務めようとしていたのだろう。 そして、やってきた男性に心を動かされ、なにもしてあげられなかった自分自身への後悔を抱いている。 「私をポチなんて呼ぶような罰当たりな男のことなど、気にしてやらなくてもよいと思っておったのにな……。自身があの社から離れることになった今、最後の後悔が消えぬのだ……」 「離れる?」 「ひかり」 小首を傾げた私をたしなめるように、雨天様は首を横に振った。 私はハッとして、口を噤む。
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