お品書き【二】 どら焼き ~居場所を失くした者~

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「はい。だからこそ、お客様の心が救われる方を信じていただきたいと思うのです。私がその男性でしたら、あなたを心の拠り所にしていなければ、勝手に名前など付けませんから」 優しい声が、静かに落ちていく。 いつの間にか雨が降っていたことに気づいたのは、お客様が縁側の方に視線を遣ったから。 「……ああ、そうか」 ぽつりと零されたのは、柔和な声音。 雨音とともに、鼓膜をくすぐるようだった。 「だったら、ポチなんてふざけた名前を付けたことくらい、大目に見てやらねばならぬな」 〝ふざけた名前〟なんて言いながらも、どこか愛おしそうに微笑んでいる。 外を見つめたままの双眸は、怖いと感じた外見からは想像もできないほど、とても穏やかで優しいものだった。 「まぁ、もし主に会えたとしたら笑われるだろうが、それも悪くない」 「いいえ。あなたの主はきっと、あなたをお褒めになるでしょう。最後までよく社を守ってくれた、と」 「お前に主のなにがわかる?」 「あなたの主のことは存じ上げておりませんが、私も神と呼ばれる者の端くれです。自身に仕える者への想いは、分かち合えるかと」 「若造のくせに生意気な」 視線を雨天様に戻したお客様は、雨天様の答えを聞いて目を見張ったあと、ふっと笑みを零した。
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