お品書き【二】 どら焼き ~居場所を失くした者~

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ふとお客様の瞳を見れば、キラキラと光るものが浮かんでいた。 その美しさから目が離せなくなりそうだったけれど、見てはいけないものを見たような気がして、咄嗟に視線を逸らした。 「今宵は雨でございます。こうも激しく降っていますと、なにもかもが濡れてしまいますね」 雨がちっとも激しくないし、ここは室内で濡れるはずがない。 ただ、雨天様の言葉に小さく頷いたお客様を見て、私も外を見遣った。 曇った空から落ちてくる雨粒は、美しい庭を濡らしていく。 紫陽花が嬉しそうに水浴びをするかのように、淡い紫やブルーの花に無数の雫を受けていた。 「ああ、なんだか疲れたな」 「きっと、腹が膨れて安堵したのでしょう。もうひとりでお待ちになることはありません。どうか、心と体をゆっくりとお休めくださいませ」 ひとり言のような声に、雨天様が穏やかな面持ちを見せる。 お客様は、「そうさせてもらおう」と頷き、雨天様に向かってそっと柔らかな笑顔を返した。 「雨天と子狐よ、最高のもてなしであった。心から感謝しよう」 深く頭を下げたお客様に、雨天様たちはニコニコと笑っている。 コンくんはほんの少しだけ不服そうだったけれど、笑顔を崩さなかった。
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