お品書き【二】 どら焼き ~居場所を失くした者~

31/40
348人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「来世もあなたに幸福の縁がありますように」 優しい声音でそんな言葉が紡がれたのは、それからすぐのこと。 雨天様の声につられたように隣を見ると、意味深な笑顔を向けられていた。 「訊きたいことがたくさんあるようだな」 「そ、そりゃあ、だって……」 さっきまでお客様がいた場所と雨天様を交互に見ると、雨天様がクッと笑いを噛み殺すように喉を鳴らす。 からかわれているような気がしたけれど、雨天様は「あとで答えてやる」とだけ言い、お客様が使っていた食器を持った。 「雨天様~! 子狐なんてひどいですよね! コンはもう二百歳を超えているんですよ!」 そんな雨天様の後を追うコンくんは、不満を漏らしている。 さっきの不服そうな顔つきの理由はわかったけれど、今はそんなことよりももっと知りたいことがたくさんある。 「だいたい、雨天様のことだって神様とは思っていませんでしたよ! 失礼なお客様でしたね!」 「仕方あるまい。あのお客様は、我々よりも遥かに長い年月を生きてこられたのだ。私を若輩者と言えるくらいには、社を守り続けていたのだろう。神使という立場であったとはいえ、私は敬意を払いたい」 唇を尖らせてプリプリと怒るコンくんを、雨天様は優しい眼差しで見ている。 今まで気づかなかったけれど、雨天様はコンくんたちのことをとても可愛がっているようだった――。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!