お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「雨天様も私たちも、神頼みがいけないとは思っておりません。頼っていただければ嬉しいですし、私は神使としてできることをしたいとも思っております。ですが、欲とは際限がないもので、ふとした拍子に深くなっていくのです」 真面目な面持ちをしたコンくんは、不意に眉を下げた。 少しして、おもむろに「これは昔話なのですが」と口にし、悲しげな笑みを浮かべた。 「私が初めて人間のお客様をおもてなしした時、その者はすぐにあるべき場所に帰ることができませんでした。妻を亡くした心根の優しい男性で、私は神使になってから人と接するのが初めてだったので、些細なことにも『ありがとう』と言っていただけるだけでとても嬉しくなって、雨天様の言いつけも守らずに四六時中その者と一緒に過ごすようになりました」 ゆらゆら揺られる小さな体は、震えているようにも見える。 なにかをこらえるような横顔は、傷ついていることを隠しているみたいだった。 「最初は、お互いにとてもいい関係を築けていたと思います。けれど、その者は次第に要求を増やしていき、私の手に負えなくなってしまいました……」 「え……」 「お世話係になって浮かれていた私が、雨天様の言いつけを守らずにいたせいで、その者は我々の力で幸せになることを望むようになったのです」 過去に想いを馳せる瞳は、涙を堪えているようにしか見えない。 ただ、それを溢れさせまいと思っていることくらいはわかるから、私は少しだけコンくんから視線を逸らすことにした。 コンくんは、そんな私の気持ちを察するようにそっと微笑んだ。
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