お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「ああ、ひかり。傘はいらないよ」 「でも、外は雨が……」 「だから、私の傘に入りなさい」 雨天様は、玄関で自分の折り畳み傘を手にした私を制すると、立てかけてあった赤い和傘を持った。 珍しいものを間近で見せられた私は、ついそれに見入ってしまう。 「蛇の目傘だ。柄は木棒で、こうして藤が巻いてある」 「触ってみてもいい?」 「ああ、持ってみるか? 少し重いが」 「うん、持ちたい」 そっと渡された蛇の目傘を、どこか慎重な気持ちで受け取る。 ずっしりとした重みがあるけれど、鮮やかな色に目を奪われた。 蛇の目傘の赤い和紙には白い輪が施され、そこに沿うように梅の花が描かれている。 内側には張られた糸は〝飾り糸〟と言うらしく、和傘の美しさに感嘆のため息が漏れてしまった。 「そんなに気に入ったのなら、それはプレゼントしてやろう」 「え? ううん、いいよ!」 「遠慮することはない。傘などまた手に入る」 「ううん。そうじゃなくてね、私の傘はおばあちゃんと選んだものだから、それを使いたいんだ」 私の答えに、雨天様は「そうか」とだけ言った。
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