お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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庭に出ると、見渡す限り新緑に覆われていた。 だけど、あちこちにある木には、果実がたくさん実るのだとか。 「梅に桃、柿や栗の木もあるぞ」 「すごいね。ここにあるのって、全部果物の木なの?」 「いや、松や杉もある。庭はとても広く、人の足だと一日で回り切れる土地ではなくてな。その分、色々な木があるが、私も仕込みで忙しい時などは奥の方の手入れはコンに任せることも多い」 「へぇ。全部見てみたいな」 「……そうなる前に、ひかりはここが見えなくなる」 雨天様の言葉に、一瞬だけ心臓が跳ね上がった。 お屋敷にずっといられないということを忘れたわけじゃないけれど、気づけば居心地の良さを感じてしまっていたせいか、いつかここが見えなくなる時が来ることから目を背けそうになっていたのかもしれない。 「そんな顔をするな。ひかりがここにいる間に、できる限り案内してやろう」 雨天様はそんな私の気持ちを察したのか、優しく言ってくれたけれど……。 あくまで帰る場所を忘れてはいけないよ、とたしなめられたような気がした。 だけど、私の居場所はここじゃない。 どんなに居心地が良くても、それだけは決して忘れちゃいけない。 ただ、本当に元の場所に戻れるのだろうかと考えると、不安が大きくなっていく。 だて、もし元の場所に帰ったとしても、きっとここが見える限りは足が向いてしまうと思うから。
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