お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「ひかり。なにも心配することはない」 「え?」 「ひかりがここをきちんと去る時は、もう私たちのことは見えなくなっている。元の居場所……ひかりのあるべき場所に、必ず帰ることができる」 自然と眉を下げて不安をあらわにしていた私に、雨天様は「そういうものなのだ」と微笑んだ。 安心させようとしてくれていることは嬉しいのに、とても寂しい。 「見えなくなるのは嫌だけど……。ずっとここにいるわけにはいかないもんね。欲が深くなったらダメだもん……」 「コンから聞いたのか?」 「うん……」 「そうか。だが、あの者は、結果として幸せになり、天寿を全うしたのだ。だから、ひかりも幸せを掴めるさ」 蛇の目傘を差したまま空を仰ぐ雨天様は、柔らかな表情をしていた。 もうずっと昔のことを思い出しているのか、曇り空を見つめる横顔は懐かしさを滲ませている。 「雨天様は、ずっとここにいるのは嫌じゃないの?」 その横顔を見つめていると、心で考えていただけだったはずの言葉が声になってしまっていた。 しまった、と感じた時には、雨天様が私の方に向き直っていた。 傘の分だけ距離がある私たちの間に、さっきまでとは違った重い沈黙が広がっていった。
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