お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「先代のことは聞いたのか?」 「少しだけ……」 「そうか。それなら、少し昔話をしようか」 雨天様は視線で私を促し、再びどこかへ向かって歩き始めた。 赤い蛇の目傘を追うように、その背中について行く。 「私は昔、神使だった」 「え?」 「私はもともと、ここの神ではなかったのだよ」 ここの神様じゃなくて、神使だった。 その事実に驚く反面、先代がいたということは〝そういうことなのかもしれない〟とも思った。 「先代は、ある日どこからかやって来た私に甘味を出し、今の私たちのようにもてなしてくれた。だが、私にはあるべき場所がなかったようで、帰ることはできなかった」 雨天様は、それまでの記憶が曖昧な部分があり、自身が誰に仕えていたのか今も思い出せない、ということを話し、寂しげに笑みを落とした。 「行く宛のない私に先代は、『ちょうど神使が欲しかった』と言い、自分に使えないかと訊いてきた。先代は、この地域に雨を降らせる神様だったのだが、私は信頼できない者に仕える気はなかった」 「じゃあ、一度は出て行ったの?」 私の問いかけに、雨天様は「いや」と苦笑した。
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