お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「先代は随分と人が好い……と言うと語弊があるのだが、まぁとにかく懐が広かった。神使になることを拒んだ私を、なんの見返りもなく置いてくれたのだ」 その時から、先代と雨天様の生活が始まった。 「最初はあまり仲良くはなかったが……」と苦笑した雨天様は、次第に少しずつ会話をするようになり、気づけばこのお屋敷で仕事をするようになっていたことを、懐かしそうに話していた。 「そうして、私がここへ来てから二百年余りが過ぎた頃、先代の神使になるという契約を交わしたのだが……」 そこで言葉を詰まらせるように瞳を伏せられ、私は思わずその顔を覗き込んだ。 だけど、さっきよりもずっと寂しそうな双眸に捕らえられ、なにも言えなかった。 「先代の力は、その頃随分と弱くなっていたのだ……。長い間ここをひとりで守っていた先代は、自身の力が弱まっていくことも厭わずにやって来る者たちをもてなし続けていたせいで、もうここを守るだけの力は残っていなかった」 「そんな……」 「ある意味、優し過ぎたのだろうな。私がそのことに気づいた時には、先代はもう私にすべてを任せるつもりでいたようだ」 「雨天様はそれを受け入れたの?」 「そうするほか、なかったのだよ」 答えをわかっていたような気がする疑問に対し、予想通りの言葉が返って来た。 まるで、昨日負った傷を見せるかのような、とても悲しそうな面持ちとともに……。
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