お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「納得したわけではなかったが、そう時間がないこともわかっていた。なにより、ただの神使である私に先代が消えてしまうことを止める力がないのは重々わかっていたからこそ、せめて恩義のある先代の想いを自分自身で引き継ぎたいと思ったのだ」 「でも……神様のお役目を引き継ぐなんて、そんなに簡単なことじゃないよね?」 「ああ、その通りだ。ただ、店を継ぐのとはわけが違うからな。神様の代わりなど、本来なら神使に務まるわけがない。だが、先代はあろうことか私と出会ってすぐに、ここを私に託すことを決めていたらしい」 「え?」 「先代の甘味を作る技術を覚えいった私は、知らぬ間にここを守るために力も分け与えられていた。私がここに来てから先代が消えてしまうまでの、二百五十年という月日を掛けてな」 長い長い年月を掛け、雨天様は先代からこのお屋敷を託された。 雨天様には、決して気づかないように。 「先代は、消える前にとても楽しそうに笑っていた。『ずっとひとりだったが、お前が来てから毎日がとても楽しくて幸せだった』と。そう言われても、先代が消えたことをそう簡単に受け入れられなかったが……こちらがどれだけ悲しみに暮れていても、お客様は待ってはくれないからな」 雨天様は、おもむろに空を仰いだあとで私を見つめた。 とても優しく穏やかな表情で、けれど寂しそうに。 「私が雨を降らせる理由は聞いたか?」 そっと首を横に振ると、雨天様は手を伸ばし、手のひらで雨粒を受けた。 それから、そっと微笑んだ。
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