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「この雨は、お客様の傷なのだ」
「え? 傷……?」
「私は、ここにやって来たお客様の心の傷を受け取り、雨に変える。そして、こうして降らせるのだ」
「じゃあ、悲しい雨ってことなの?」
「私も先代からこの力の話を聞いた時に同じことを尋ねたが、先代は否定していた」
それまでどこか悲しみを孕んでいた瞳が、幸せそうに空を見遣る。
少しして、懐かしむような顔つきで答えが紡がれた。
「先代に言わせるのなら、これは〝癒やしの雨〟だそうだ」
「癒やしの雨?」
言葉を反復するように声にすると、雨天様が大きく頷いた。
「この雨はお客様の傷から生まれるが、ここを去って行くお客様はみな、傷が癒えた心で帰って行く。だから、この地に降る雨になる時にはもう、癒やしへと変わっている……と」
「……なんか、素敵だね」
「ああ。私は少しばかり乱暴な理論だと思わなくはないが、この考え方は好きなのだ。そして、先代は、この癒やしの雨が少しでも人々の心を癒やすように願うようにしていたのだそうだ」
「お客様の心じゃなくて?」
疑問を感じた私に、雨天様は再び首を縦に振った。
「私も同じことを訊いたのだがな」と、笑いながら。
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