お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

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「ここに来るお客様だけが、なにも傷ついているわけではないだろう? みな、大なり小なり悩みや痛みを心に抱えながら生きている」 確かに、傷やつらさの度合いはともかく、きっとこの世に傷ついたことがない人なんていない。 先代は、そういう人たちも救ってあげたかったんだろうか。 「困った先代だと思ったよ……。傷ついたものをみな癒やすなんて、いくら神様でも無理に等しい。けれど、先代はこの地に棲むすべての魂を守りたいと思っていたようなのだ」 「すごいね……」 「私に言わせれば、ただのお人好しだ。まぁ人ではないが……。自身が力尽きることも厭わずに、自身以外のすべてを守りたいと願っていたのだからな」 雨天様は眉を下げていたけれど、その笑顔は悲しみや寂しさが混じっているようなものじゃなかったと思う。 だって、どこか誇らしそうに見えたから。 「ねぇ。雨天様もすべて救ってあげたいとか思ってるの?」 「私は先代とは違う。先代に比べれば力も弱く、神様としての経験も浅い。そもそも、もともと神使だったような者が、すべてを救おうなどという分不相応なことは考えるものではない。自分の力は、私自身がよくわかっている」 「うん、その方がいいと思う」 「だがな、ひかり……」 雨天様には無理をしてほしくなくて共感するように告げると、雨天様は私の気持ちを察するように頷き、笑みを浮かべたまま私の名前を呼んで空に手を翳した。
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