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場所は変わって第1エリア、商店街。
佐藤の言葉にまんまと騙され果物屋までやってきていた伯万玄竜と三十三十月だったが勿論イベントが終了した果物屋が開いているはずもなく。
「くっそ、開いてねえじゃねえか!」
シャッターを下ろし、無人の果物屋の前で立ち往生していた伯万玄竜はイラついたようにそのシャッターを蹴り上げる。
しかし果物屋にはバリアーが張られており、伯万の足が悲鳴を上げるだけで相変わらずビクともしない。
どこか暖かく心地のよい空気が流れる夜の第1エリア内部。
キラキラと煌めく星空の下、足を押さえ踞る伯万玄竜を眺めながら三十三十月は「伯万さんチンピラみたいですよ」と茶化す。
その言葉に若干涙目になっていた伯万は三十三を見た。
「いやいやおかしーじゃんこれ、あのロボット夜行けっつったよな。なに、もしかして裏から行くとか屋根とか登れとかそっち系?」
しかしまだ諦めない伯万は再び果物屋に近付き壁に手を近付け、建物との接触を拒むようにバリアーが出現する。
そのまま張られた透明なガラスをペタペタと触る伯万は不思議そうな顔をした。
そしてそんな伯万を見兼ねた三十三は「伯万さん」と小さく声を掛ける。
「お忙しいところ申し訳ありませんが俺思ったんですけどもしかして自分ら佐藤さんにハメられたんじゃないんですかね」
「ハメ……やらしい意味で?」
「いえ、騙された的な意味で」
「…………」
「…………」
長閑な第1エリアにひんやりとした冷たい風が吹いた。
◆ ◆ ◆
「おいこらポンコツアンドロイド出てこいやあぁっ!」
場所は変わって第1エリア宿屋。
怒鳴り散らしながら勢いよくあまり上等とは言い難いその扉を蹴破る伯万玄竜のその斜め後ろ、伯万とは対照的にいつもと変わらないやる気なさそうな顔をした三十三十月は「伯万さんチンピラみたいですよ」と突っ込む。
その言葉に眼鏡を光らせた伯万は振り返りぎろりと三十三を睨んだ。そしてずいと詰め寄る。
「普通に考えてみろよ、ミトちん。あの野郎、自分のために俺らを騙したんだからな?これが落ち着いていられるかよ」
そうまるで親の仇とでもいうかのように力強く説得してくる伯万に引くわけでもなく三十三は「まあ、そうですが」と表情ひとつ変えずに頷く。
そんなこんなで宿屋の入り口で揉めている二人から離れた位置、一階ロビーに残っていた頸城万里は舌打ちをし立ち上がった。
「なんだよさっきからぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ、耳障りな人語発してんじゃねえよ! 黙れ!」
「出たな根暗野郎」
言いながら伯万に掴みかかる頸城万里に目を向けた伯万に「根暗じゃねえ!」とご丁寧に訂正する頸城。
そんな頸城に構わず、ロビーに頸城しかいないことを確認した伯万は頸城に詰め寄った。
「おい、あのアンドロイドはどこにいんだよ」
「はあ? アンドロイド?」
問い掛けられ、頸城は眉を寄せた。
言わずもがな旅先案内人であるあの愛想に問題がある人工知能のことだろう。
数十分前、補習生である因幡樂とともに上に上がっていくのを思い出した頸城は「あいつならいな……」と言いかけ、因幡から口止めされているということを思い出し慌てて口を閉じた。
「いな?」
「あ、いや、なんでもねえ。佐藤ならどっか出掛けてるんじゃねえの? 知らねえよ」
「今はなんか言い掛けたよな、お前。いな……なんだよ。言い掛けて止めんなよ」
「間違えただけだっての。おい、触んじゃねえ。知らねえっつってんだろうが!」
ぐいぐいと肩を掴み詰め寄ってくる伯万を振り払おうとする頸城。
ぎゃあぎゃあと揉み合いになる二人を他所に辺りを見渡す三十三はなにかに気付いたようだ。
伯万に近付き小さく耳打ちをする。
「因幡さんもいないようですね。見当たりません」
その報告に「なに?因幡も?」とぴくりと眉を動かす伯万。
「男一人とポンコツアンドロイドが一体いなくなったとか、普通に考えてあいつらヤってんだろ! いやらしい! 最近の若者はなにかとすぐ不純なことに走って!」
「いまの伯万さんみたいにですね」
「うっせーなミトちん、さっさとあいつら探すぞ!」
お前には用はねえと言わんばかりに頸城から離れた伯万は声を張り上げた。
終始顔色一つ変えない三十三は「了解」とだけ頷き、さっさと宿屋の二階へと階段を駆け上がっていく伯万の後を追い掛けていく。
「……」
まあ、自分はなんも言ってないし約束はちゃんと守ったよな。
思いながら、頸城万里はテーブルに戻り因幡から奢ってもらったデザートを食べ進めることにした。
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