エリア1・始まりの町

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 宿屋二階、因幡樂の部屋。 「それで、あなたのカウンセリングをしたらいいんですか?」 「うん、そうだね。それも楽しそうだけど君には色々聞きたいことがあるんだよね」 「聞きたいこと?」 「そ、聞きたいこと」  言いながら、因幡は質素な床の上に正座している佐藤の側にしゃがみ込む。  面と面向かい合うような形になり、佐藤はじっと因幡を見詰め返した。  物怖じしない佐藤の淡白な反応に因幡はにこりと微笑む。 「人工知能の性知識ってどの程度のものなのかなって」  そしてそうなんでもないように因幡は続けた。  そのストレートな言葉に過剰な反応するわけでもなく無表情のまま「随分と勉強家ですね」と続ける佐藤に因幡は「でしょ?よく言われる」と笑う。 「だからね、僕の知識欲を満たすために健太くんに協力して欲しいんだ」 「俺にですか?」 「いいよね、これも補習の一環なんだから」 「確かに、貴方が人工魔術専攻というのは聞いていますが……というかこの手はなんですか」  何気なく佐藤の腕を掴んでくる因幡に僅かに警戒する佐藤。  そんな佐藤に因幡は「いや、実技で教えてもらおうかなって思って」とヘラヘラと笑う。益々嫌な予感がする。 「……実技?」  やんわりと振り払おうとしても外れない因幡の手。  正座を崩す佐藤は迫ってくる因幡から後退り、そしてそれを引き戻すように因幡は佐藤の太くも細くもない腕をぐっと引っ張り自分に寄せた。 「君はゆっくりしてていいよ。こっちで勝手に調べさせてもらうから」  そのままバランスを崩したように尻餅をつく佐藤の膝の上に膝立ちになる因幡はそう続け、形のいい唇に薄い笑みを浮かべる。 「健太くん、キスって知ってる?」 「まあ」 「実際にしたことある?」 「ないですけど……それがなにか」 「じゃあ僕にしてみてよ」  佐藤の上に膝立ちになる因幡は相手の顔を覗き込み「君の中でインプットされた知識でいいからさ」と笑う。  挑発的な因幡の言葉にただ相手を見据え返す佐藤は僅かに眉を寄せた。 「これも、貴方の知識欲を満たすためですか」 「そうだよ」 「ろくな欲じゃありませんね」  そう素直な感想を述べれば因幡は嫌な顔をするどころかおかしそうに喉を鳴らして笑う。 「そんなもんだよ、欲なんて」  そして僅かに引け腰になる佐藤の肩を掴み、ぐっと顔を近付けた。  鼻先同士が擦れ合うくらい因幡の顔が接近し、それでも佐藤は狼狽えるわけでもなく迫る因幡の目を見返す。 「ほら、早く」  小さく急かしてくる因幡の息が唇に吹き掛かり、佐藤は僅かに唇を閉じた。  未だ、佐藤は因幡の思考回路は予測出来ていない。  自分にこんなことをしてどんな実験になるのか。 「……」  思いながらも、言われるがまま因幡樂の唇に顔を寄せた佐藤はちゅっと小さな音を立て微かに触れるだけの優しいキスをする。  相変わらずその表情に感情はなく、暫し因幡樂の目を見据えていた佐藤だったがそのまま何事もなかったかのように因幡から離れようとした。 「ほら、しましたよ。……んっ」  その矢先だった。伸びてきた因幡樂の骨張った手に後頭部を押さえられ、そのまま深く口付けを交わされる。 「ぅ、んむ……」  薄く開いた佐藤の唇を抉じ開けるように舌を捩じ込む因幡は慌てて腰を引こうとする佐藤の肩を掴み佐藤の咥内をまさぐる。  唾液が絡み、舌を動かす度にくちゅくちゅと咥内に水音が響いた。 「ふッ、くぅ……っ」  因幡の長い舌で咥内を掻き乱され、開きっぱなしになった佐藤の口の端からは唾液が溢れる。  それを拭おうとまず目の前の因幡を引き離そうとする佐藤だったが因幡は退くどころか自分を振り払おうとするその骨っぽい手首を掴んだ。  そして、代わりに佐藤の唇から垂れる唾液を舌で舐めとる。 「ッは、いなば、さん……っなにを」  解放され、突然の行為に僅かに戸惑う佐藤は尋ねる。  そんな佐藤に因幡は悪びれもなく笑った。 「あんなのキスの内に入らないよ」 「だから僕が本当のキスの仕方、教えてあげようかと思って」そうにこりと微笑む因幡になんだか佐藤は先が思いやられた。  知識欲と調教欲は全く違う。 「……遠慮します。俺には必要ありませんので」 「必要だよ、これから君は僕たちのサポートしなきゃなんないんだからキスくらいできないと」 「サポートとキス、なんの関係もありません」 「わかってないな、君は。補習生の体調管理がサポーターの役目なら、こっちの管理も君の役目に決まってるじゃないか」 『こっち』と言いながら下半身を指で差す因幡樂。 「そんなんですか?」と佐藤が尋ねれば因幡は「そうだよ」と当たり前のように頷き、そしていつもと変わらない柔和な笑みを浮かべる。 「だからさ、舌、出してよ」  正直半信半疑だったし、事前に因幡樂についてのデータを受け取っていた佐藤は彼が要注意人物だってことも知っていた。  それでも、因幡樂を含めた補習生たちのサポートを任されている佐藤にとってサポーターとして必要されることは嬉しかった。  どれ程の知識やデータを体内に内蔵していたところで佐藤にはあまり意味がなかった。  産まれたばかりの人工知能はサポーターとしての実践と実用を望んでいた。  だから、つい因幡樂の甘い言葉に惑わされてしまった。 「ぁ……っ」  撫でるように唇同士がそっと触れ合う。薄皮から流れ込んでくる相手の体温に僅かに息を飲む佐藤はそのまま目の前の因幡の目を覗き込んだ。  そして、再び唇を重ねられた。 「ん……ふ、ぅ……ッ」  自ら唇を開き、おずおずと舌を突き出せば僅かに笑んだ因幡はその小さな舌を絡み取る。  お互いの唾液でどろどろに濡れた舌はぬるりと滑り、上手く絡み取れない。  逆にそのもどかしさに胸が昂り、息を荒くした因幡の舌が自分の舌に触れる度感じたことないその感触に佐藤はピクリと小さく震えた。 「は、ぁ……ッ」  唇が唾液で汚れても構わず、時おり角度を変え執拗に唇を貪ってくる因幡をただ受け入れる佐藤は朦朧としながら相手を見据える。  その矢先だった。不意に、肩を掴んでいた因幡の手が離れたと思った瞬間床の隙間から滑り込んできた手に尻を撫でられる。  咄嗟にそれから逃げるよう腰を浮かせれば、因幡はそのまま浮き上がった佐藤の尻を鷲掴んだ。  むにむにと輪郭を確かめるようにジャージ越しに尻たぶを揉みしだかれ、食い込む因幡の細い指の感触に佐藤はビクリと硬直し、慌てて相手の肩を押し唇を離す。 「っぁ、ちょ……あの、因幡さん、なにやって」 「健太くんのお尻って結構柔らかいね。ぷにぷにしてる」 「因幡さんっ」  キスまでなら、と思っていた佐藤だが性行為は流石にまずい。  必死に自分の臀部を揉みしだく因幡の手を引き剥がそうとする佐藤。  いつも仏頂面な佐藤が見せる慌てた反応が面白かったのかくすくすと楽しそうに笑う因幡はそのままジャージの上から佐藤の肛門を探り当てる。 「ここも柔らかいのかな」  そして、ぐりっと指先に力を入れ布ごと窪みに指を埋めればビクリと大きく肩を跳ねさせた佐藤は「ぁッ」と小さく声を洩らし、因幡の腕を強く掴んだ。  下着を身に付けていないお陰で薄いジャージ越しの挿入も容易く、佐藤の制止に構わず因幡は締まったそこを無理矢理抉じ開けるように指を動かし入り口を広げれば佐藤はふるふると小さく震え始める。 「ゃ、めて下さい、因幡さん……ッ! これ以上は校則違反ですっ」 「校則違反? やだな、僕はただ触って調べてるだけだよ。目の前に人工知能搭載独立型アンドロイドがいるんだから実験するくらいいいよね」 「まさか、補習監督の君が補習生の勉強を邪魔するような真似はしないよね」懇願するように必死に止めてくる佐藤が面白くてつい意地悪なことを口にしてしまう因幡に、佐藤は眉を寄せる。  本当に口がうまい。  挑発するような因幡の言葉がただの理屈だということはわかっているはずなのに、耳元で囁かれればまるで自分が間違っているかのような錯覚を覚えずにはいられなくて。 「……っ貴方は、狡いです」  そう低く唸りながら因幡からずるりと手を離す佐藤ににこりと微笑んだ因幡は「よく言われる」と口端を吊り上げる。
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