裏切り

1/1
前へ
/13ページ
次へ

裏切り

 ガサガサと聞き慣れない音で目が覚める。 黄色いネット越しにゴミ袋に囲まれていた。 「はわわわっ!」 飛び起きて周りを見回しても、見覚えのない景色ばかり。 服装は褐色のスエットの上下。左手には宝石箱のようなピルケースを握っている。 うん、 さっきと変わらない。  「どうちまちょう?」 右手で髪を掻きあげようと手を上げたら、手の平から紙がポトリと落ちた。 くしゃくしゃに丸められた紙には見覚えがない。 あ、もしかしたらご主人様からの指令かもしれない。 昔、やったかくれんぼみたいなやつ。 紙に書かれた指令をこなして、正しかったら、また紙があるみたいな遊び。 付き合い立ての時に1回したことがある。 「困ったご主人様でしゅね」 憎いけど、愛らしいところがまた好きだから。  ぼくちんは大切な手紙のように丁寧に開いた。 でも、愛らしい象形文字みたいな字ではなく、無機質なコンピューターの字で淡々と綴られていた。 “私、三角満(みつかどみつる)は恋人の金成元基(かねなりもとき)に日常的にお金をせがんでおりました。拒んだ彼に横領を持ち掛け、 定期的に大金を貢がせました。彼は私のために尽くしてくれていただけなのです。 責任は全て私にあります。私は命をもって償います。 どうか許してください。本当に申し訳ございませんでした"  「なに、これ……?」 横領? 自殺? 自分には記憶にないことばかりが並べられていて、 混乱する。 でも、 その中で一番知りたくなかった事実がわかった。 ぼくちんは濡れ衣を着せられて死ぬはずだったこと……裏切られて捨てられたことを。 「ご主人様…… 」 ぼくちんはなにをしたというのですか。 朝、仕事にいったあなたが帰ってくるのをおとなしく待っていたのに。 あなたに可愛がって欲しくて、なにもかもを捨ててあなたのところにきたんですよ。 この3年間は無駄だったというのですか。  雨がぼくちんに突き刺さる。 さっきまで呑気に眺めていたはずの雨が身体に染みて、とても冷たい。 もう言葉にできない。 愛した人の冷酷さと自分の愚鈍さに失った言葉の代わりに咽び泣く。 ザーザー 気持ちを汲んだように天の涙も激しさを増す。 もういっそ、このまま冷たくなってしまおうか。 ぼくちんは静かに瞳を閉じた。  ドドドドーン 「ひええ………」 忘れていた一番苦手なものがやってきた。 顔を上げたら、近くの空がピカピカ光っていた。 ゴロゴロゴロ イヤな音が近づいてくる。 感電しで死ぬのだけはイヤだ。 「は、早く……どこかに」 ぼくちんは住んでいた家の場所も、ここがどこかも知らない。 ただ一時でもどこかへ雨宿りできればと思って。 その後、どうするかを考えればいいや。 とりあえず、今は雷から逃げることに決めた。 ぼくちんは重い身体を起こして、走り出した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加