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まとめ【種】
朝、ご主人様に両手を手錠で繋がれるぼくちんは雑草のように定位置に座って帰りを待つ。
これが3年くらい続いてる。
理解できない人は憂鬱な遊びだと嘲笑うかもしれないけど、気にちない。
もうご主人様以外に会っていないし、忘れちゃった。
大きな窓からのんびりと外の景色を眺めてるだけで幸せだ。
急にご主人様からメールがきた。ぼくちんの携帯にはご主人様の連絡先しか入ってないから当たり前か。
「今日は豪華なご褒美をやる。とっておきの薬を飲んで待ってろ」
ぼくちんは柴犬のイラストが書かれたピルケースから2錠取り、飲む。
あれ、舌が青くて眠いーー。
気が付くと路地に寝転んでいた。
目を覚ますと、外に投げ出されてた。
でも、左手にはピルケース。
そして、手紙が……パソコンで打たれた無機質な文字が並ぶ。
"金成元基(かねなりもとき)は私、三角満(さんかくみつる)の指示により、御社の横領を致しました。どうか私の命で償わせてください"
ぼくちんは濡れ衣を……着せられたんだ。
僕はこの数年"犬"として飼われてきた。
家から出たことないし、ほぼ動いていない。
だから、どこに住んでいたのかもここがどこかもわからない。
呆然としていたらどしゃ降りになってきた。
それにこのままだと……僕の人生が終わる。
「とりあえず、どこかへ」
とにかく雨宿りでいいから、逃げよう。
ずっと役に立たない脇役だったぼくちんはとうとう屍に成り果てる……それはイヤ。
息が切れて止まった場所は雨が踊っていた。
緑を基調とした家の辺りが特に。
まるで天国。
「は? 冗談キッツ!」
甲高い叫びがそこから聞こえる。
「今さら……遅いんだよ」
サッと雨が止む。
突然、天使が現れた。
雨宿りだけのはずが、なぜかお風呂を借りてる。
鏡に映るのはたぬき顔の僕だけ。
「お前と一緒にいたら、飽きないなぁ」
頭の中にいつものご主人様の声が響く。
「はひぃ、めちゃくちゃにちてくだちゃい」
惚けた頭の声の命令に従い、お尻に指を入れる。
「あ……アアッ!」
快感に思わず叫びまちた。
「だいじょうぶぅ?」
のんびりとした口調が聞こえてきたから、すぐに抜いて平然を装う。
「どした?」
ドアを少し開けて穏やかな笑みを浮かべる君。
「間違ってあちゅいのにちて……大丈夫でしゅ」
「気をつけてぇ、えーと」
「三角満」
「じゃあ、ミツ! 君と一緒にいたら、飽きないねぇ」
「さて、どうちましょ?」
先を案じながら上がったぼくちん。
「タオル、お借りちましゅ」
拝みながらお辞儀をしてから1枚借りる。
「はわわわっ」
あまりの柔らかさにびっくりする。
「ハハハ……ミツ、面白いな」
低い声が聞こえてきたから、前を見ると君が口角を上げて斜に構えていた。
「ちゃんと身体温まった?」
怖いくらいカッコよくなった君にドキッとしゅる。
「あ、ありがとうございまちた。助かりまちたでしゅ」
「全然いいよぉ。服は洗ってるから、とりあえずそれ着て?」
指した先にはワイシャツ、小豆色のTバックと水色のゾウさんパンツ。
「さぁ、どうすんの?」
小悪魔だ。
シャワーを浴び終えて、身体を自分で拭こうとしているのに上手くいかない。
「下手くそだぁね、こうやるのぉ」
さっきまで斜に構えていた君が急に近づいてきた。
「なに見てんのぉ」
ニヤッと笑った君に深いキスをされ、優しく胸を拭かれ、男のアレまで。
違うのに気を許してしまう。
ごめんなしゃい。
甘いより痛い方がいい。
"七いとこ辿れば他人なし"とはよくいったもので。
ヒサメに髪を乾かしてもらった時にふと見た水墨画の絵で確信した。
空間デザイナーとしてデザイン事務所に働いていた時のお得意様、雲叢(はとりうんそう)画伯。
とても可愛がってもらった。
「へぇ、あの人がね……」
知り合いだなんて、すごいなぁ。
「家に来てくれてありがとう。お礼はいらない……お金も」
僕はビクッとした。
ねじれた主従関係の終末に残ったのは意味のわからない手紙と300万が入った茶封筒だけ。
「大丈夫、ちゃんと返すよ」
黒いサコッシュバッグを僕の肩にかける。
「最後にあの作品見てって?」
鏡に悪魔が映っていた。
あはミツをアトリエへ誘導した。
『作品を見て』と嘘を吐いて。
並べられたイーゼルを疑いもなく見ているミツをよそに香水を付ける。
飼い主のものと同じチューベローズ。
なんで知ってるかは秘密。
「ヒサメ……!?」
あを呼んだミツを抱きしめる。
さっ、始めよう。
なはあのものにするからね。
「そうだ、ミツ。ご褒美をあげるよ」
妖しく笑ったヒサメは小さい冷蔵庫からピンクの棒アイスを持ってきた。
間も先も食いちぎるワイルドさにクラクラしゅる。
「優しく咥えろよ……俺のモンだと思って」
強引に口に突かれたものを必死で吸う。
そして、乳首に冷たい感触が。
ああ……たまりましぇん。
「ちゃあんと、意識保って?」
グリグリと乳首を刺激されればされるほど、頭が溶けていく。
「ほら、食べ残しついてるよ?」
口も奥に突っ込まれて苦しくて、ピンクの液体がより口の端から漏れる。
「下手くそだぁね……でも、めっちゃそそる」
最高と低い声で呟き、ふっと笑われる。
もうわかんない。
ミツ、君はあに初めて会ったと思ってるよね。
違うよ……会いたかったんだ。
その間に別の人を愛してしまったことを許しておくれ。
今、君は快感に溺れて恍惚の表情を浮かべている。
「もっともっと、ぼくちんをいじめてくだちゃい」
ああ、もっと早くこうすれば良かった。
もう離してあげられないよ。
達してもバイブを抜いてもらえないミツを放置して、絵を描くあ。
「本当にミツと一緒にいたら、飽きないんだぁね」
恍惚なミツのバイブを止めてあげる。
「あは雲叢の息子の霈(ひさめ)。しかも、この家をデザインしたのさ君だよ? あのために」
ぼくちんはびっくりした。
初めてじゃないなんて。
ヒサメは男なのに、美容パックをつける。
しかも、今回はぼくちんも。
「ふふっ、かわいい」
ベッドで寝そべりながら写真加工アプリでツーショットを撮る。
「明日のゆで卵、楽しみだぁね」
最近、2人で茹で時間の違うゆで卵を食べ合っているの。
ぼくちんは硬め、ヒサメは半熟。
ちあわせでしゅね。
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