恋と書いて愛と読むそして、

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 よく夢に見ていた。今よりもだいぶ丈の短いスカート。男性が着るような上着に身を包み。同じような服を来た女の子達と、お屋敷より豪華とは言えない建物の中の、薄汚い場所で、地味な女の子の事を掃除係が使うようなブラシを使って、体を叩いている光景を。 「ほら、これであんたも少しは綺麗になんでしょ?」 「うっわ、くっさ。5時間目から教室入ってくんなよ〜臭すぎて授業集中できねぇわ。」  顔などはよく見えないけれど、これだけは分かる。私はその小さな世界の女王として生きていた。  私如きが女王陛下を務めるなんて、たとえ夢でも陛下たちに対して非礼極まりない。  そんな夢を毎日見ていたある日、また違う夢を見た。夜までどこか湯浴み場よりも狭い個室で、動く写真立てがあったり、なにか棒のような物に声をかけたり、異国の文字が書かれた石版とはまた違った、もので遊んでいた。その帰り道、馬車を使わずに歩いて家まで帰っていた。  そんな時だった。ランプをふたつ持った大きな箱のようなものに私は当たり、死んだ。  体が大きく飛び跳ね、目を覚ます。勢いよく起き上がり、今見た光景を思い出す。両手で腕を擦りながら、考える。  今のは、夢じゃない。現実だ。あの女の子は私で、女子高生という学生をしていた。毎日学校のトイレや人目につかない場所で、クラスメイトの地味な女の子をいじめていた。  トイレで、掃除道具のモップを顔に擦り付けたこともあった。薄汚れた雑巾を濡らして、頭の上で絞ったこともあった。  あれは間違いなく、私がしてきたことだ。そしてさっき見た夢、あれは私が死んだ時の夢。  放課後、友達とカラオケへ行き、夜遅くまで歌い、家に帰る途中、トラックに轢かれて死んだ。  それから私、なんでここに居るの?辺りを見ると、薄い布で覆われていた。天蓋ベットと言うやつなのだろう。支柱が上まで続いており、明らかに高そうな雰囲気を醸し出している。  私は急いで自室にある姿見へ駆け寄った。長いまつ毛と大きな目、白人のように白い肌に、外国人のように異様に高い鼻と深い堀。  私だ。これは間違いなく私なのだ。あの夢の中の人物も私なのである。ということは考えられるのはただ1つ、異国の宗教で聞いたことがある。輪廻転生というものなのだろうか。  教養の一環として、その辺のことは勉強したが、まさか異教徒の私が体験するとは微塵も想定していなかった。  今の私の状況を整理すると、私には前世というものがあり、前世では地味な女の子をいじめていた、性悪。  今の私は?今の私は、貴族に生まれ、公爵令嬢という高い身分で、王太子の婚約者。と言っても政略的なものなのだが、これは、非常にまずい。  こう言うのはだいたい決まっているのだ。いくら転生しても魂の形は変わらない。という事は、今世でも私は誰かをいじめているという事になる。  思い出せ。誰をいじめている? …マリア!!!  そうだ、私下級貴族の男爵令嬢、その方を。でも、どうしてだったかしら?そうだ、王太子が男爵様の領地へ視察へ行った際、領地の案内役をしたとかなんとかで、婚約者のいる人に手を出したとか言い掛かりを付けていじめていたのだった。  そういえば、小さい頃に転生前の祖母が言っていた。人にした事は回り回って自分に帰ってくる。と、なぜ私は今までそのことを忘れていたのかしら。  もし覚えていれば、前世でもいじめることは無かったのかもしれない。今となっては無意味な話だが。明日、日が明けたら男爵令嬢の元へ赴き、謝罪をしなければ。その前に手紙を送って。私は紙とペンを取りだし、至急お話したいことがあるので明日、午後お茶会をしないか?という内容の手紙を書いた。  アフタヌーンティー文化があって良かった。さすがに高位貴族からのお茶会は断れまい。もし了承して頂けるのならば、私がそちらへ赴きます。と記し、明日早馬で届けてもらうことにしよう。私は手紙と侍女のために、これを早馬で朝のうちに届けて欲しいと記したメモを、目につきやすいテーブルの上へ置いた。
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