紫煙を燻らせる

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紫煙を燻らせる

 煙草に関する言葉が割と好きで。  特にこの、紫煙を燻らせると言う表現は、とても好き。  煙草を吸うと言う行為の、何とも言えない色気、大人な雰囲気を上手く表していると思う。 嗜好品の中でも、特に顕著に自分の命を削りながら嗜む煙草。(嗜好って言葉も凄くカッコいい)  その悪い感じも、魅力的に感じる理由なのかもしれない。   換気扇の下で、ボーッと紫煙を燻らせている彼を盗み見ながらそんな事を考える。 香水と同じように、煙草の匂いもその人それぞれで、ああ、一緒にいるんだなと思えるから嫌いじゃない。  そろそろ吸い終わる頃に彼に近付いて、両手を広げれば、直ぐに火を消して抱き締めてくれる。  胸いっぱいに匂いを吸い込んで、ああ、彼の匂いだなと思っていたら、首筋に顔を埋めていた彼に、良い匂いがする、お前の匂いだ、と言われ、お互い同じ事をしているんだなと笑ってしまう。  そのままキスをすれば、煙草特有の苦味が広がって、凄く近くにいるんだと意識してキュンとしてしまう。  彼に取り込まれた紫煙が、唇を通してあたしを蝕んでいく感触に酔い痴れて、幸せ、と思わず呟いてしまうあたしは、煙草に溺れているのか、彼に溺れているのか、どちらにせよ、気持ちが良い息苦しさは後を引く嗜好品。
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