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月に一度、夜の街に響くピアノの音。
日が落ちる頃に流れる夕焼け小焼けみたいに、当たり前のようにある音。
僕は急にその音の持ち主が誰なのか気になった。
そしてその日の夜、僕は音を頼りに探し出す。
音の先には、石畳の上のストリートピアノと長い髪の綺麗な女性。
細い指から溢れるのは、繊細なメロディー。
「弾いていたのは、あなただったのですね。」
「ええ。」
ピアノの音色に溶け込んでいくような彼女の声。
「どうして、月に一度だけなのですか。」
「彼は月に一度しかすべてを見せてくれないの。」
彼女は銀色に輝く髪を揺らして、夜空を見上げる。
「夜がお好きで?」
「いいえ。ただ、夜の彼は冷たいのよ。だから私は彼の全てを浴びながら、私の音と混ぜて抱き合っているの。もっとも、姿を現してさえくれない昼間の方がずっと冷たいのですけどね。」
そう言って笑うと、彼女はうっとりしながら体を揺らす。
淡い光にのせられた暖かいドビュッシーの旋律は、どこまでも届きそうだった。
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