42人が本棚に入れています
本棚に追加
夏が終わり秋が来ても、ちびっこはおにさんと遊んでいた。
2歳の誕生日が近づく頃には、おにさんのことも少し話せるようになっていた。
本当に5人(5匹?)いるらしい。
見上げたり、見下ろしたりしているから背格好も色々らしい。
不可思議な存在を、こんな風に受け入れている自分のことが、不思議でならない。
このままずっと、三月まで一緒に暮らすものだと思っていた。お別れの時、何か贈ろうかと考えていたくらいだ。
別れは突然だった。
二月の始め頃。
帰宅した途端、ちびっこが言った。
「おにさん、行っちゃった」
「そうなの!?」
こくんと頷く。
私が箱を開けたり扉を開けたりしても、首を横に振るだけ。
ぎゅっと抱き締めたら、しくしくと泣き始めた。小さい子とは思えないような、悲しみを堪えた、切ない泣き方だった。
思わず、私も涙が零れてしまった。
「おにさん」が「お兄さん」なのか「鬼さん」なのか、はっきりはわからない。
ただ、その日は節分の日だった。
この子が何も知らずに豆を撒く前に家を出たのか、その他の理由があったのか。
ずっと、分からないまま。
あたたかい思い出だけ残して。
完
最初のコメントを投稿しよう!