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二
校門の前に見知った影が見え隠れしていた。その影が待っている対象が自分であるか定かではなかったので、そのまま通り抜けようとした。すると影は振り返り、立ちはだかった。
「帰るの」
「え、うん」
「一緒に帰っていい」
「良いけど」
無言でこちらの隣にくっついて歩き出した。グラウンドからは野球部やサッカー部の大きな声が聞こえてきた。テニス部の掛け声も後ろから大きく響いてくる。下校する生徒たちは、特段こちらを気にしていないように、いつも通りすれ違っていく。
「ミズウチさ」
運動部の声に交じって、しかしはっきりと名前を呼ばれた。隣を見るとカモイがじっと見つめてきた。
「誰かに言ったり…した?」
「まさか。するわけない。…何か言われた?」
「いや、そうじゃなくて。ただの確認。ごめん、何も言われたりもしてない」
通り過ぎていく生徒たち、その風景はいつもと変わらず、まるでこの前の唐突な出来事が嘘のように思えるほどだった。同じクラスの人も、先輩も、後輩も、普段と何ら変わりなかった。カモイがさっき聞いてきたのは、少しの変化を感じている自分たちの、事実確認でもあったのかもしれなかった。
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