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黒いカーテンの先を潜ると、誰もいない時もあるし、誰かがいる時もある。大抵は中年の男性で、入るとぎょっとしたような顔をされる。私服とはいえ、まだ十八にもなっていないような高校生が急に入ってきたら、そりゃあびっくりするのは当たり前だろう。本当は入ってはいけないのも承知しているので、注意されたら出ていくことにしようと心の中では思っていたが、やる気のない店員たちが僕をとがめたり、ましてやアダルトコーナーに深夜に入ってくるような大人たちが説教するはずもなく、僕はいつの間にか、──タイミングこそ見計るものの──人目を気にせずにアダルトコーナーに入るようになっていた。 また、何度もここに入るようになってから驚かれるのにも慣れ、今では人がいても相手に目もやらないし、何の気なしにコーナーを物色するようになった。『爆乳秘書』『昼下がり、団地妻と…』そんなタイトルに裸の女性の写真が印刷されているパッケージを見るのも、今では緊張することはない。 どうしてこんなふうに深夜にアダルトビデオ群を眺めに来るようになったのかは、自分でもよくわからない。けれど多分、日々の鬱積した気持ちを発散するために辿り着いたのが、これだったのだと思う。 特にこれと言ってビデオを借りたりするわけでもないが、このコーナーの中でいる間だけは普段のいろいろなことを忘れられ、面倒なあれこれを何も考えることなく、気兼ねない、自分らしい気持ちでいられるような気がした。アダルトコーナーに入ることで自分らしさを得られるなんて変な話だが、なんだか家よりも安心できる場所のような気さえした。 適当に気になったDVDのパッケージを手に取り、裏を見てはラックに戻す。気が済んだらコーナーから出る。そんな行動が、自分の中では安定剤のようなものになっていた。
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