うちに誰かがいます

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 今日は朝から嫌なことがあった。  上司から渡された大事な資料が一部足りず、電話をかけたり、聞いて回ったりしてさんざん探した後に結局上司が持っていたことが判明した。  さらに、部下の仕事の進みが遅く、私の仕事に影響が出ているので手伝うことになった。終わりが見えてきたころ、変更になったと連絡が入り仕事が全て無駄になった。しかも、それは上の思いつきにより昨日変更されており、連絡ミスで私たちは聞かされてなかったと知った。  いつも通りの残業ではあるが、いつもより精神がすり減らされた。部下はいつの間にか帰っていた。  私も残りは家でやろうと荷物をまとめる。  会社から1歩1歩家に近づくたびに涙が出てくる。 「おかえり」  家の扉を開けると彼が立っていた。いつもはリビングにいるくせにどうして今日に限ってここにいるのだろう。  彼には悪いが、私は答えずにリビングへ進み、スーツのままベッドにダイブした。枕に顔を埋める。  彼が近づいてくる気配がした。 「つらいの?」 「つらいよ」 「どうしてやめないの?」 「私がやめたら…迷惑がかかる」 「どうしてそんなに頑張るの?」 「頑張ってなんかないよ、ただ仕事してるだけ」  彼は私の頭を撫でてきた。 「上司に振り回されて、部下の仕事代わりにやって、ボロボロになるのが仕事?」  同じセリフを前にも誰かに言われた気がする。誰だったかな、思い出せない。 「休んでいいんだよ。君は迷惑をかけられてるんだから。やり返しなよ」 「社会人だもん、そういうこと言ってられないよ」 「このままだと君は死ぬよ」  死ぬ。死を感じて少し怖くなった。でも…。 「でもどうすることもできないよ」 「そんなことない」 「もうほっといて!」  私は彼に枕を投げた。彼はいつか私が想像した、悲しそうな顔をしていた。 「そう」  彼は家を出ていった。  朝起きても彼はいなかった。私はいつも通り会社へ向かった。  お腹空いたな。そういえば昨日ろくにご飯食べてないな。  地下鉄から地上へと向かう階段を上がる。太陽の光が、私には眩しすぎてくらっとした。  どうしてだろう、太陽がどんどん遠ざかっていく。
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