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リビングの扉の前にスーツ姿の私はいる。
おかしい。何か変だ。
リビングの扉を開け、電気をつける。
「おかえり」
知らない男がリビングの真ん中で体育座りしていた。
違う、知らない男じゃない。でも、誰かわからない。
「驚いた?」
彼が近づいてきた。私は玄関へ向かった。そして、扉を開けた。
リビングに出た。
「おかえり」
「帰して」
「ここが君のお家だよ」
彼を押しのけ、ベランダの扉を開いた。
「え?」
暗闇だった。夜だからとかじゃない。どこにも明かりは無く、ただ暗闇だけが広がっていた。
「危ないよ。ここにいて。ここは安全だから」
彼が私の後ろに立っていた。
「帰りたいの」
「行っちゃだめだよ」
彼は私の腕を掴んだ。
「待ってる人がいるの」
「行ったら死ぬかもしれない」
彼の指に力が入る。
「…でも、ここにいるわけにはいかない」
私は彼の手をそっと離し、ベランダから身を投げた。
彼は泣きながらこちらを見ていた。
どんどん下へ落ちていく。暗い。寒い。寂しい。
少し眠ろう。まだ先は長そうだ。
無意識に伸ばした腕を、誰かに掴まれた気がした。
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