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「待って、ちなみに、未来や過去に何度も自由に行ったり来たりはできないわけ?」
「それはできない。もともと住んでる世界を起点にして、そこから未来なら未来、過去なら過去への一方向の移動しかできないんだよ。」
「え、そうか、迷うな……」
そう言う僕に、ユウはさらに視線をまっすぐ突き刺してくる。
「僕の能力を身に付けるなら、過去の世界で金持ちになれる。でも、何にも感動できない」
コータが続く。
「おれの能力なら、未来に行って、何にでも感動できる。でも、普通の人が知ってることを全然知らないハンデも大きい」
「どっちがいい?」2人の声がユニゾンする。
「ううーん……」
僕は言葉に詰まってしまう。
「どっちか、選ばなきゃいけないわけなの……?」
僕は2人をしばらく、泳いだ目でじっと見る。手に汗がふきだしてくる。
すると、ユウがぷっ、と吹き出した。そして、
「あはははは」と、クールな彼から今まで聞いたことのない明るい笑い声が、大きく弾ける。
「ごめんごめん、これ実は、ただの心理テストだったんだ。」
笑いをこらえながら、ユウが苦しそうに言う。
「なんでも、どれだけ心が老いてるかがわかるんだって。要はどれだけ保守的かってこと」
「なんだ、やっぱり」と僕。
「ごめんね。でも君の困った顔、面白くってたまらなかったよ」
ユウのこんな屈託のない笑顔は、初めて見たと思う。
「で、どっちがいい?」彼はもう一度僕にきく。
「まあこれが心理テストなら……やっぱり、冒険心は忘れちゃだめ、ってことだよね。コータみたいに過去から未来に行きたい、っていうほうがいいんでしょ」
僕らはこうして和やかに笑いあい、その日の昼休みは過ぎて行った。
そしてユウの目に何やら光が宿っていたように見えたのは、悪戯めいた心理テストが楽しかったのだろう、と僕は思っていた。
―――僕がその日の夜、車に轢かれて死ぬとは知る由もなく。
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