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翌日。
大学でユウを見つけたコータは、小走りに彼に近づいた。
「ユウ、昨日は何で心理テストって嘘ついたのさ」
「おれは君に比べて何も知らないから、何か考えがあるんだろうと黙ってたけど」
コータは息を切らせながら、言葉をつなぐ。
「それにユウはあいつが死ぬこと、きっと知ってたんでしょ」
ユウは静かな目でコータを見返す。
立ち止まり、そして数秒の沈黙が流れる。
晩秋の冷たい空気が、2人を包んでいた。
「彼が死ぬことは知ってた。だから、友人になったのさ。」
え、とコータは小さな声を漏らす。
「死ぬ直前の人に出会いに、僕は過去へといつもタイムトラベルしてるってこと。」
「ああ、この人はこの後すぐに死ぬ。そう思いながら対面してると、ゾクゾクしてくるんだ」
ユウの口調は、その内容とはうらはらに、静かな小川のようにゆったりと流れてゆく。
「そして、死の当日にはいつもちょっとした趣向をこらすんだけど……」
「今回はたまたま過去から来た君がいたから、タイムトラベルの話でちょっとしたゲームをしてみたってわけ。うまい具合に選びさえすれば、あるいは彼は助かったのかもしれない。でも」
「やっぱりダメだったね。残念ながら」
言葉を失い立ち尽くすコータに、ユウは一瞥を投げながら歩きだす。
「ほらね、未来人ってのは、とっても退屈なんだ」
「そんなことくらいしか、愉しみがないのさ」
コータは立ち去るユウの後ろ姿をただ見つめていた。
こんなにも冷たい未来人が、彼以外にも現代社会にひっそりと混じっているのだろうかと自問しながら。
途端に強さをました風が、木の葉を吹き散らしながら、広いキャンパスを吹き抜けていった。
(完)
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