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「花嫁さん、時間ですよ」
「はい」
ドアを開け、案内されると白河のお祖父さんが待っていた。
バージンロードを白河のお祖父さんにお願いした時は驚かれたけど、壱都さんにはあの祖父を驚かせるのは朱加里くらいだと言われてしまった。
そんな驚くことだった?
その白河のお祖父さんは老いを感じさせないしっかりとした足取りをしていて、壱都さんが見たらまた『当分死なないな』と悪態をつく様子が目に浮かぶ。
なぜか、二人は会うと似た者同士なのに気が合わない。
「馬子にも衣装だな」
「ありがとうございます。正装がよく似合ってますね」
白河のお祖父さんの正装姿は貫禄がある。
「花嫁に言われても嬉しくない。結婚式で花嫁に勝るものはいないだろう」
遠回しの褒め言葉に私は微笑んだ。
「複雑な気持ちだが、井垣が悔しがっていると思うと悪くないな」
チャペルの扉が開いた。
両側の高い窓からは光が降り注ぎ、扉を開けた先には壱都さんがいて、手を差し伸べていた。
そして、私の名前を呼ぶ。
「朱加里」
あの日、私を井垣の家から連れ去った時と同じ笑顔で壱都さんはまた私をこの先へと連れて行ってくれる―――明るい未来へと。
【了】
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