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「そう、根はとてもいい方だよ。けど、最近じゃ人間不信気味になっていてね。旦那様や奥様だけじゃなく、孫の紗耶香さんも金をせびるだけだろ?大旦那様は寂しかったんじゃないかねぇ」
「そうなんですか」
町子さんは話をしながら、また長い廊下を歩いた。
「大旦那様には経営の才能はあっても旦那様には遺伝しなかったみたいでね。会社も引退できずに井垣財閥の会長のままなんだよ」
聞いてもいないのにどんどん町子さんは話し続けた。
「心配なんだろうね。ああ、部屋はここだよ」
お祖父さんの部屋に近い部屋で台所や裏口にも近い六畳ていどの部屋だった。
机と椅子、ベッドがあるけど娘の部屋というよりは住み込みの使用人のための部屋のようだった。
町子さんの哀れむような目を見て、自分の感想が間違ってないことを知った。
「明日からよろしくお願いします」
「そ、そうだね。夕飯は台所でとるように言われているけど、今日は部屋に持って行くように言ってあるから」
「はい」
私がなんの不満も言わずに返事をしたのを見て、町子さんはホッとしていた。
部屋のドアがしまり、一人になると雪の音しか聞こえないくらい静かになった。
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