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「残念ですね」
「井垣家の財産を手にできないと知ったら、朱加里になにをするかわからん」
そうだろうなと思った。
息子の社長は器の小さい大したことのない男だ。
経営センスもない。
井垣会長の不安もわかる。
「頼む。あの子を守ってくれるなら、井垣の社長の椅子も財産もすべてやる―――」
「やめてください。会長!」
頭を下げた井垣会長に動揺してしまった。
そんなことをしないでほしい。
俺は白河の三男で会長にすれば、とるにたらない存在だというのに。
「あの子を守ってやってくれ」
「頭を下げないでください。俺はまだ頭を下げられるだけの男にはなっていない」
会長は頭をあげない。
頭を下げられなくても、俺の答えはすでに決まっている。
「わかりました。社長になり、朱加里さんと結婚し、井垣会長の跡を継ぎます」
そう答えることに何の迷いもなかった。
不思議とそうしたかったのだ。
もしかしたら、この時、すでに予感していたのかもしれない。
朱加里と結婚することを。
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