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「朱加里さんがこの家に来てから、大旦那様は明るくなられたよ」
「そうですか?」
そんなに変わってないと思うけど、私はそう言われたことが嬉しかった。
準備したおやつを手に部屋へと向かう。
襖を軽くノックして部屋に入ると、お祖父さんは眠っていたようで、目を開けてぼんやりと天井をながめていた。
ドキッとして慌てて声をかけた。
「お祖父さん。おやつを持ってきました。今日はチョコマフィンです」
「ああ……。ありがとう」
体を起こして羽織を着せた。
体重も増え、体調もいいと聞いていたから、心配ないはずだった。
コーヒーを一口飲むと、お祖父さんは目を細めた。
「懐かしいな。ここのブレンドコーヒーをよく妻と飲んだ」
「そうなんですか?よかった。わからなかったので、お店の人に聞いたんですよ」
「昔はこの近辺の喫茶店に入ると、ここの豆を挽いたコーヒーを飲めたものだ」
お祖父さんはそう言ったけど、井垣の家の周りには喫茶店は見当たらなかった。
昔は、ということは今はもうないのだろう。
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