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あんな風に微笑まれて、嫌な女性なんていない。
けれど、壱都さんは自分の微笑みが他者に効果があるかわかっていそうで、なかなかのくせ者のような気がした。
かっこいいけど、ちょっと胡散臭い―――それが、壱都さんの第一印象だった。
「井垣会長。今日は俺に重要な話があると聞いて、伺ったのですが」
「ああ。大事な話だ」
なるほど、と壱都さんはうなずく。
そして、テーブルの上にあったお祖父さんが食べていたマフィンを見て言った。
「美味しそうなマフィンだね」
「え?」
「ここで頂くから、持ってきてくれるかな?」
「はい……」
私が部屋を出ると、二人は声を潜めて話し始めた。
なんだか、体よく追い出されたみたいで、面白くなかったけど、仕事の重要な話かもしれないから仕方ない。
部屋を出て、廊下を歩いていると台所の前で沙耶香さんがうろうろとしているのを見つけた。
なにをしているのかなと思いながら、台所に入ろうとすると、呼び止められた。
「朱加里。壱都さんはなにをなさっているの」
「お祖父さんと話しています」
「そんなことわかっているわよ!内容を聞いてるの!」
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