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「さあ……。仕事の話だと思いますよ」
「仕事の話なんてつまらないわ。だいたいあんな偏屈な年寄りと話して、何が楽しいのかしら。私とお喋りした方が楽しいと思わない?」
それはどうだろう。
紗耶香さんと話をするより、お祖父さんと話をしたほうが私は好きだけど。
「せっかく可愛くしたのに」
沙耶香さんは泣きそうな顔をして、うつむいた。
私に言われてもどうしようもない。
頼まれたお茶の用意をしようと台所に入り、コーヒーとマフィンをお盆にのせた。
「ね、朱加里。私がそれを持って行くわ。いいわよね?」
「はあ……かまいませんけど」
紗耶香さんは私の手からお盆を奪うと、いつもは近寄らないお祖父さんの部屋に嬉々として歩いていった。
「王子様は見たかい?」
沙耶香さんないなくなったのを見計らって町子さんが話しかけてきた。
「見ましたけど」
「どうだった?キュンとしなかったかい?」
町子さんだけじゃなく、周りにいた使用人全員が期待を込めた目で私を見た。
「どうもしません。私には恋愛する余裕なんてありませんから」
そう、恋愛をするには時間もお金も必要なのだ。
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