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「朱加里お嬢様。坂の下から坂の上まで全部、井垣の土地なんですよ」
「おい。お嬢様なんて呼ぶな。それから、よけいなことを口にするな。財産が欲しいと言い出したらどうする」
「は、はあ。申し訳ございません」
運転手さんは父の叱責に身を小さくさせた。
フロントガラスに雪が落ちては消えるのを眺め、心を無にした。
黙っていることが賢いのだと自分に言い聞かせて。
玄関に車が横付けされると、私に声をかけることもなく、車を降りて、お屋敷の中へと入っていってしまった。
入ってもいいのだろうかと、しばし玄関先に立っていると運転手さんがやってきて、優しく言ってくれた。
「寒いでしょう。中へどうぞ」
玄関に入ると、お手伝いさんらしき年配の女性達がジロジロと私を見て、ひそひそと話していた。
きっと井垣の家の人達は私が来ることを知っていたのだろう。
全員から、私に対して好奇の視線を向けられているのがわかった。
「おい!こっちだ!」
父の声が私を呼ぶ。
呼ばれた部屋へ早足で向かうと、そこは家族がくつろぐためのリビングだった。
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