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私にはその両方がない。
おしゃれで身綺麗にしている紗耶香さんと地味な服にエプロンをつけただけの私。
男の人なら間違いなく、紗耶香さんを選ぶだろう。
「夕飯の豆のすじとりを手伝います」
「なーに言ってるんだい!あの王子様に自分を売り込まないと!」
「いいですから、夕飯の豆をください」
「豆より今は王子様だよ!」
「王子様より豆です」
私が町子さんの言い争っていると、遠くからスリッパの音が聞こえてきた。
紗耶香さんが壱都さんの名前を連呼して、ずっとおしゃべりを続けている声が台所まで聞こえ、町子さんは黙った。
紗耶香さんが壱都さんのことを気に入っていると知っていて、私を焚き付けるなんてことできるわけがない。
静かになってよかったと思いながら、豆が入ったボウルを手にした。
「お茶をごちそうさまでした」
壱都さんは帰り際、台所に顔を出し、礼儀正しく挨拶をした。
その挨拶に私は立ち上がって会釈をすると、壱都さんと目が合った。
それも結構、長い時間。
なんだろうと思いながら、その目を見つめ返した。
それが気に入らなかったのか、紗耶香さんが横から、私と壱都さんの間に割って入った。
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